しらかわ・かつのぶ

 1973年、福岡県生まれ。2003年3月、広島大大学院国際協力研究科で博士号(Ph.D)取得、同年4月、高原の自然館学芸員に就任。現在は、生態系を形づくり、維持してきた「人の営みの歴史とその未来」に興味があり、湿原と草原を主なフィールドとして研究を続けながら、保全活動に取り組む。著書に「花だより」(白暮団)、「フィールドガイド 芸北の自然」(共著、北広島町教委)、「みどり資源活用のフロンティア 中山間地域新生への考察と実践方策の提言」(共著、大学教育出版)などがある。


2010-02-02

_ [生態系] 生物多様性の危機〜人間がもたらす3+1

 国連は、2006年12月の総会で「2010年を国際生物多様性年とし、生物多様性に関する問題を解決するために、国連をはじめ全世界の団体・個人に呼びかける」ことを決定しました。この大切な年2010年10月に、日本の名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催されます。

 日本で開催された国際会議といえば、最近では2008年の洞爺湖サミットが記憶に新しいものですが、生物多様性条約には先進国だけでなく、180以上の国々が加盟しています。そのため、会議の規模や、年間を通じてのイベントの規模も洞爺湖に比べて大きなものになる予定です。それでは、そもそも「生物多様性に関する問題」とは、いったい何なのでしょうか?


第一の危機

 生物多様性とは、生物の種類、生態系の種類、遺伝子の種類に、いろいろな違いがあるということです。その多様性を損なう原因として、すぐに思いつくのが大規模開発などによる自然破壊です。例えば、大きな道路を造ったり海を埋め立てたりすると、そこにあった生物や生態系は無くなります。また、土地の改変はしなくても、珍しい昆虫や希少な草花を採取すると、生物多様性は減っていきます。

 このように、人間が自然に対して何らかの働きかけをすることによって、直接的な影響を与え、多様性が失われるのが、生物多様性の第一の危機です。特に湿原など、原生的な自然は、人間が踏み込んだだけでも環境が変わり、多様性が失われる場合があります。

【写真説明・左】 一度伐採されたブナ林の再生には、少なくとも100年以上の年月が必要となる(2004年9月、大暮)
【写真説明・右】 すでに減少してしまった個体群では、わずかな採取も絶滅につながる。絶滅危惧種のチョウを捕獲する昆虫愛好家(2009年8月、土橋)


第二の危機

 人間の活動がもたらす第一の危機とは反対に、自然に対する人間の働きかけが無くなることによって失われる多様性もあります。その典型が里山です。定住生活を始めた人間は、住居の周りにある自然から、さまざまな資源を得ていました。例えば薪などの燃料、キノコや山菜などの食物、衣服にするための繊維や毛皮、家の建材や屋根を葺くカヤ、家畜に与える干し草、田にすき込む緑肥など、生活に必要なあらゆるものを里山から得ていたのです。

 ところが、石炭や石油などから作られる化石燃料や化成製品に依存した生活に変わったために、身の回りの資源は使われなくなりました。広島県の例を見ると、かつては日常的に使われていた、松林の落葉や落枝が使われなくなったために、アカマツ林の中が薮になり、マツタケが生えなくなった林がたくさんあります。このような例はマツタケだけでなく、さまざまな里山で同様の事が起きています。人間の活動も里山の仕組みには必要であり、それが無くなることによる多様性の低下が、生物多様性の第二の危機です。

【写真説明・左】 かつては、集落内のどこかの家で、毎年のように大量の茅が使われていた。茅葺き屋根の葺き替えは、芸北でも今では珍しい光景(2007年9月、川小田)
【写真説明・右】 放置された里山を元に戻すには、大きな労力が必要になる(2009年8月、千町原)


第三の危機プラス1

 生物多様性の第三の危機は、外来種の問題です。本来そこに居なかった生物が生態系に持ち込まれると、爆発的に数が増えて他の生物を駆逐したり、特定の種の生息・生育が阻害されたりして、それまで保たれていた生態系のバランスが崩れてしまいます。このような、外来種による多様性の低下が生物多様性の第三の危機です。

 これら3つの危機が、国内における生物多様性の危機として認識されており、積極的に対応しなければ、日本の自然がもたらす豊かな恵みが損なわれると考えられています。また、はっきりとした影響は確認できていませんが、これら3つの危機に加え、地球の温暖化が進めば、生物多様性に深刻な影響をもたらすと考えられています。

【写真説明・左】 侵入してしまったセイタカアワダチソウの駆除方法は確立されていない。外来種は、まず持ち込まないこと、そして見つけたら早めの予防が肝心(2008年11月、千町原)
【写真説明・右】 温暖化が進めば、広島からブナ林がなくなるかもしれない(2005年5月、苅尾山)

 生物多様性に危機を及ぼす3+1の原因は、全て私たち人間によるものです。私たちに多くの恵みをもたらす生物多様性の危機は、私たちの生活の危機でもあります。そして、その危機を取り除くことができるのも私たち人間だけなのです。世界中の人と一緒に、生物多様性について考えてみませんか。



 芸北高原は中国山地の脊梁(せきりょう)部、標高600メートル以上の多雪地帯です。そこには1万年をかけてつくられた八幡湿原をはじめ、ブナの林や草原など、県内有数の自然があります。そして、屋根まで届くほどの雪と暮らしてきた人の生活があります。この連載では、芸北高原に生きる生物の営みを通じて、大勢の自然科学者が解き明かしてきた自然の法則を紹介していきます。

 原始の海で生まれた生物は40億年の間に、海から陸へ、そして空へと生活の場を広げていきました。数百万種に及ぶ生物たちは、様々な環境で多種多様な生き方をしています。しかし、まったく違う生き方をしている生物たちも、たった一つの目的のために行動しています。それは、子孫を残すことです。生き物たちのシンプルな目的を理解すると、彼らの「生き方」が持つ意味が見えてきます。

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